今回は、TEDxより、Lara Boydさんの演説内容の記事を書きます。
タイトルは
[After watching this,your brain will not be the same]
「この演説で、あなたの脳は変わる」です。
まずはぜひ、YouTubeの動画を見て頂きたいです。
「脳の学習の仕組み」について、論理的でしかも分かりやすく解説して下さっています。
YouTubeの設定で、日本語字幕を付ける事が出来ます。
ご覧になった方々が、さらに深く学習できるように、この記事の下記に「文章起こし」を添付しています。
そしてその後で、要点をまとめていきます。
Contents
lara boydの動画
lara boyd[After watching this,your brain will not be the same]の日本語翻訳文字起こし
「学び方」について考えましょう。
容易に学べる人とそうでない人がいるのはなぜでしょう?
私はララ・ボイドと申します。
ここブリティッシュ・コロンビア大学で脳の研究をしています。
「学び」についての疑問に大いに関心があります。
脳を扱うのは重要な最先端研究ですが、それは人間の生理を理解することでもあり、
何が自己を規定するのか探求することでもあります。
脳の研究者にとって今は素晴らしい時代で、
あえて言うなら私は、世界一興味深い仕事をしています。
脳に関する知見は驚異的な速度で変化しつつあります。
同時に過去に得られたはずの脳に関する知見の多くが「間違い」か「不完全」であることが判明しています。
誤解の中でも顕著なものの例を挙げましょう。
たとえば以前の常識では「小児期を過ぎた脳は変化せず変化させようがない」と言われていました。
今では、その考えは全くの見当違いだとわかっています。
脳に関する誤解のもう1つの例は、
「脳の中で常時使われているのは一部でしかなく、何もしていない時の脳は休止状態だ」というものです。
これも事実ではありません。
休息をとっている時や、何も考えていない時でさえ、脳は非常に活発なのです。
MRIのような技術の進歩でこうした多くの重要な発見が可能となりました。
そしておそらく、最も刺激的で、最も興味深く、革新的な発見は
「新しい事実やスキルを学ぶごとに脳が変わる」ということです。
これを「神経可塑性」※1といいます。
ほんの25年前まで思春期以降の脳にはネガティブな変化しか起きないと考えられていました。
加齢や、脳卒中などの後に残る損傷によって、脳の神経細胞が減少するからです。
ところが研究によって、成人の脳にも著しい再構築が生じることがわかってきました。
その後の研究では、「私たちの行動すべてが脳を変える」ことがわかったのです。
しかも、こうした変化が年齢に限定されないなんて実に素晴らしいですよね?
実際のところ脳は常に変化しています。
そして特に重要なのは、脳の再構築は、損傷を負った後の脳の回復を助けるということです。
こうした変化の鍵となるのが「神経可塑性」です。
具体的に何が起きるのでしょう?
脳が学習を形成する際の変化の仕方にはごく基本的な3種類があります。
《第1》は、「化学的な変化」です。
脳はニューロンと呼ばれる神経細胞の間で化学的なシグナルが伝達されることによって機能しますが、
これが一連の反応の引き金となります。
ですから、脳は学習を形成するために神経細胞の間隙に起きるこの化学的シグナルの濃度を上げるのです。
この変化が迅速に起きるからこそ「短期記憶」が可能となり、短期的な運動スキルの向上が可能になります。
脳が学習を形成する際の変化の仕方として《2つめ》は、「構造的な変化」です。
学習の過程で脳はニューロン間の結合のあり方を変えます。
つまり脳の物理的な構造が実際に変わるわけですから、この変化には少し時間がかかります。
こうしたタイプの変化は、「長期記憶」や、「長期的な運動スキルの向上」に関係しています。
こうしたプロセスが相互作用する例を挙げてみましょう。
皆さんも新しい運動スキルを獲得しようとしたことがあるでしょう。
ピアノを弾くとか、ジャグリングとか。
たった1回のレッスンのうちにぐんぐん上達して「できた」と思った経験がおありでしょう。
ところが翌日には、前日に得た進歩はすっかり消えていたりします。
何が起きたのでしょう?
脳は短期間のうちにニューロン間の化学的なシグナルを増やすことはできたのですが、わけあって、構造的な変化には至らなかったのです。
「長期記憶の形成」には「構造的変化」が不可欠です。
それには時間が必要でしたね?
短時間に起きたことは学習とは言えないのです。
「物理的な変化」が起きて初めて長期記憶が形成されていきます。
「化学的な変化」は短期記憶の段階の話です。
構造的変化は、学習のために協働する脳の各領域を結ぶネットワークの形成にもつながります。
またある非常に特殊な行動をする際に、その行動にとって重要な特定の領域において構造的変化や領域の拡大が
生じることもあります。
例を示します。
点字を読む人の脳の手指の感覚領域は、点字を読まない人より大きいのです。
利き手の運動野は右利きなら左半球ですが、反対側(右半球の運動野)より大きくなっています。
ロンドンのタクシー運転手を調べた研究によると、タクシー免許を取るために街の地図を覚えなければならない彼らの脳では、空間的あるいは地誌的記憶を司る領域が大きいことがわかっています
学習を形成するために脳に起きる変化の《3つめ》は「機能的な変化」です。
ある脳の領域を使ううちに、その領域は興奮が起きやすくなり、どんどん使いやすくなります。
そうやって興奮性の高い領域ができると、脳はその領域が活性化するための条件を変えるのです。
学習することで脳の活動のネットワーク全体が変遷を繰り返します。
つまり神経可塑性は、化学的、構造的、機能的な変化に支えられており、
その変化は脳全体で起きているのです。
変化は単独でも生じますが、ほとんどは呼応しあって起きます。
全体で学習を形成するわけです。
そして変化は絶えず生じています。
ここまで、「脳は素晴らしく可塑的なのだ」という話をしてきました。
ではなぜ、やろうとしても、簡単に学習できないのでしょう?
なぜ、子供たちの成績が振るわないことがあるのでしょう?
なぜ、年をとるごとに忘れっぽくなるのでしょう?
なぜ、脳の損傷は完全に回復しないのでしょう?
つまり、「神経可塑性を制限あるいは促進する要因は何か」ということです。
それこそが私の研究テーマです。
具体的には、神経可塑性が脳卒中の回復にどう関わるか研究しています。
脳卒中による死亡はアメリカの主な死因として3番目に多かったのですが、
近年減少し、4番目になりました。素晴らしいニュースですよね。
しかし、実際のところ脳卒中の発症件数自体は減っていません。
重い脳卒中の後、命が助かるようになってきただけです。
脳卒中から脳を回復させるのは非常に厳しいことがわかっています。
率直に言えば、効果的なリハビリ介入の開発が進んでいないのです。
この結果、脳卒中は世界的に見ても、成人の長期にわたる身体障害の主な要因となっています。
若年で脳卒中を発症すれば、障害とともに生きる期間が長くなります。
私のチームは脳卒中を患ったカナダ人を調査し、健康関連の生活の質が低下しているという結果を示しました。
脳卒中からの回復を促すという点で、改善の必要があるのは明らかです。
これは途方もなく大きな社会問題でありながら、解決に至っていません。
では、何ができるでしょうか?
1つはあまりにも明白です。
神経可塑性による変化で「一番の原動力となるのは本人の行動」です。
そして肝心なのは、「行動と練習の量」です。
新しい運動スキルの学習や以前学んだスキルの再学習には、膨大な練習量が必要です。
いかに効果的に多くの練習量を確保するかは、大変難しく、負担の大きい問題でもあります。
私が研究で取り組んでいるのは、学習に備えて脳に学ぶ用意をさせるような治療法の開発で、
そこには脳のシミュレーションや、運動や、ロボット工学が含まれます。
しかし、研究を通じて気づきました。
脳卒中からの回復を速める治療法を開発する上で、研究の限界として立ちはだかるのは、
「神経可塑性のパターンに個人差が大きい」ということです。
研究者である私は、かつて個人差を非常に厄介だと思っていました。
統計を利用する上で、データやアイディアの検証がとても困難になるためです。
この理由から、医学的な介入研究は、とりわけ個人差を最小化するべくデザインされるのです。
しかし、私の研究で実に明白になってきたのは、
私たちが得た最も重要で有益なデータに「個人差」が表れているということです。
脳卒中を起こした脳の研究から、私たちは多くを学びました。
ここでの教訓は他の分野でも大いに役立つと思います。
教訓の1つめは、
「脳の変化を起こす主体はその人の行動だ」ということです。
薬剤で神経可塑性をどうこうすることはできません。
学ぶためには、「練習」が何より効果的であり、
要するに、自分がやるしかないのです。
事実、私の研究では、
練習の過程で 難度が上がったり、一層の努力が必要になったりすると、
脳では、より多くの学びが起き、より多くの構造的変化が起きることがわかっています。
問題は、神経可塑性が両刃の剣であることです。
「プラスの側面」は、新しいことを学ぶことや、運動スキルに磨きをかけることです。
ただ「ネガティブな側面」としては、知っているはずのことを忘れたり、薬物に依存するようになったり、慢性的な痛みをもたらす場合もあります。
脳というのは恐ろしく柔軟で、
あなたが何をしても、しなくても、
そのすべてが構造的、機能的な変化に影響するのです。
脳について私たちが学んだ2つめの教訓は、
「万能な学習アプローチは存在しない」ということです。
学ぶためのレシピはありません。
世の通説では「1万時間練習すると新しい運動スキルを学習し熟達できる」などと言いますが、
断言しましょう。そんな単純な話ではありません。
人それぞれですから、もっと練習が必要な人もいれば、もっと早くできるようになる人もいます。
脳が柔軟に変化する様子には、個人差があまりに大きいため、
「全員に効果的な単一の介入法」というものはあり得ません。
この認識が個別化医療の推進の源となっています。
「最適な結果を得るために、1人ひとりにそれぞれ違った治療が必要だ」というアイディアです。
このアイディアは実はがん治療に由来します。
特定のがんに対してどの化学治療を与えるか選択する際に、遺伝的な性質が非常に重要だとわかったのです。
私の研究で、これが脳卒中の回復にも当てはまることがわかってきています。
脳の構造や機能にはある特性があります。
「バイオマーカー」と呼ぶのですが、
これが非常に有用であることがわかってきました。
私たちが患者さん1人ひとりに適した特定の治療を見つけるのに役立っています。
私の研究所のデータは、「神経可塑性による変化や脳卒中の回復パターンを最も正確に予測できるのはバイオマーカーの組み合わせだ」と示唆しています。
人間の脳がいかに複雑かを考えれば、これは当然のことです。
さらに私はこのコンセプトをもっと広げて検討できると考えています。
私たちの脳それぞれが持つ、構造や機能の独自性を踏まえ、脳卒中後の神経可塑性の研究から学んだことは、すべての人に当てはまるのです。
毎日の生活であなたが選択する行動には、重要な意味があります。
1つ1つの行動が脳を変えているのです。
そして私たちは「個別医療」だけでなく「個別学習」についても検討すべきでしょう。
あなたの脳が唯一無二であるということは、
学習する立場でも、教える立場でも、影響を及ぼします。
こうした視点は私たちの理解を促します。
なぜ、従来型の教育環境に適合しやすい子もいれば、そうではない子もいるのか。
なぜ、やすやすと言語を学べる人もいれば、スポーツに秀でている人もいるのか。
皆さんがこの後お帰りになる時には、
皆さんの脳は、今朝ここに来られた時と同じではないでしょう。
それは本当に素晴らしいことだと思います。
ただし、皆さんはそれぞれに違う方法で脳を変化させます。
この違い、つまり個々のパターンや個人差といった、変化の仕方を理解することが、神経科学の次の偉大なる進歩を可能にするでしょう。
新しく、より効果的な治療の開発が可能になります。
学習者と教師とのマッチング。そして患者と治療法とのマッチングが可能になるでしょう。
これは脳卒中からの回復のみならず、私たちそれぞれの立場である、
親、教師、経営者、そしてTEDxに出席するほどの生涯学習者にも適用されるのです。
自分にとって何をどう学ぶのがベストなのか研究してみてください。
脳にとって健康的な行動を繰り返しましょう。
そして脳にとって不健康な行動や習慣はやめましょう。
練習あるのみです。
学習とは「脳が必要とすることを実行すること」です。
ですから、最良の戦略は1人ひとり異なるでしょう。
と言うか、個人個人の中でも違いが出てきます。
音楽なら非常に容易に学べるのに、スノーボードとなると、うんと難しいという場合があります。
今日お帰りになる際、皆さんがご自分の脳の素晴らしさを改めて感じてくださればと思います。
皆さん自身と、皆さんの柔軟な脳は、周囲の世界と共に絶えず変化しています。
皆さんがすることのすべて。そして皆さんが遭遇すること、体験することのすべてが、皆さんの脳を変えているのです。
良い方にも変わりますが、悪い方にも変わります。
今日からは、ご自分の思いどおりに脳を変えていってください。
ありがとうございました。
要点のピックアップと考察
思春期以降の脳はネガティブな変化しか起きないという過去の考えは、間違っている
⇒成人の脳にも著しい再構築が生じる事が昨今の研究で明らかになっている
⇒脳の変化・成長・改善は、年齢に限定されない。
可塑性とは?※1
固体に力を加えて弾性限界を越える変形を与えたとき、力を取り去っても歪(ひず)みがそのまま残る性質。塑性。
「針金」をイメージするとこれが分かりやすいです。
真っすぐな針金に力を加えて曲げると、その曲がった形が保存されますよね?
この形状記憶的な変化の性質を、可塑性と呼んでいます。
神経可塑性とは?
「新しい事実やスキルを学ぶごとに脳は変わる=神経可塑化」
つまり、学習することで、神経可塑性によって脳の形が新しい形に保存されるという事です。
もっと言えば、この脳神経の変化こそが、学習です。
脳神経が可塑性によって再構築して新しい形に変化してこその、学習です。
脳が学習を形成する際の、変化の三段階
①化学的な変化
⇒新しい行動をし、脳の神経細胞のニューロン間で化学的なシグナルが伝達される。
この化学的シグナルの濃度が上がるという変化で、「短期記憶」が可能になる。(すぐに忘れる)
②構造的な変化
⇒化学的な変化によって化学的シグナルの濃度が上がることが繰り返されると、
脳の物理的な構造が変化する。要するに、神経可塑性によって新しい脳の回路が誕生する。もっと言えば、脳の形が再構築されて変わるという事である。(これには時間を要する)
これが、長期記憶や、長期的な運動スキルの向上に関係している。
③機能的な変化
⇒化学的な変化から、構造的な変化が生まれて新しい脳の回路が誕生する。
そしてその回路を絶えず使っていくうちに、その領域は興奮が起きやすくなり、使いやすくなっていく。
つまり、その回路の伝達が、効率化していく。
イメージ的な理解
①新しい行動によって、脳の今まで使っていなかった新しい回路に化学的なシグナル(脳内伝達物質)が集まる。イメージ的には、その新しい回路を使うことが始まる。(化学的な変化)(短期記憶)
②その新しい回路を使ううちに、脳の神経可塑化によって、その新しい回路の形が形状記憶される。イメージ的には、新しい回路が脳に出来上がって保存される(構造的な変化)(長期記憶)
③その出来上がった新しい回路を使ううちに、その回路の伝達の効率が良くなっていき、使いやすくなっていく。イメージには、その回路が太くなる。(機能的な変化)
これによって「学習」が完成される。
- 長期的にしっかり記憶できた状態。
- 自転車に乗るように当たり前のように出来るようになった状態。
この脳の神経可塑性による変化で重要な事
- 本人の改善の意思
- 行動と練習の量
この二つが重要である。
まず、本人にその気がないのに、時間のかかる脳の変化を生み出すことは出来ない。
イヤイヤやっていても、続かないし、効果がない。
本人の「学習するぞ」「出来るようになるぞ」「脳を変えるぞ」という意思が必要不可欠である。
そして、その意思があっても、行動と練習をしないことには、脳は学習しない。
いかにして行動と練習を日常的に生活に取り入れて、練習量を獲得するかが、重要である。
神経可塑性のパターンには個人差が大きい
「これで誰でも学習できる」「これで誰でも脳を変えられる」という1つの万能な方法は、存在しない。
なぜなら、神経可塑性のパターンには個人差が大きくあるからだ。
学校の勉強で、頭が良くなる子供もいれば、付いていけない子供がいるように、
同じスイミングスクールの同じコーチに従っても、上達する人もいれば、上達できない人もいるように、
・・・人の学習には、個人差がある。
これは、当然である。
みんな違うDNAを持っていて、
みんな違う経験があって、
一人一人、当然のように「脳が違う」のである。
そうなのに、ほとんどの学習機関は、全ての人に対して、1つの同じ教育を押し付けようとする。
だから、出来る人と、出来ない人で、格差が生まれる。
誰しも、世界でたった一つの素晴らしい脳を持っている。
誰しも、得意不得意がある。
誰しも、好き嫌いがある。
誰しも、合う合わないがある。
だからこそ、「自分に合った学習法」「自分に合った先生」「個別学習」を見つける事が、重要である。
それによって、ご自身のたった一つの素晴らしい脳の可能性が、開けていく。
そういった意味で持って、自分の脳が必要することを実行する事が、本当の学習である。
まとめ
この演説内容は、本当に素晴らしいです!
動画を見て字幕を読むだけでも大変勉強になりますが、
それだけでは、それこそ短期記憶であり、大変もったいない内容です。
このLaraBoydさんの演説に興味を持った人が、さらに深く学んで、自分の学習にできるように、この記事を作成しました。
・・・次回は、この記事から派生して、さらに深く脳と学習に必要な考えを学べる記事を書こうと考えています。
今日も読んで下さり、ありがとうございました!